1月下旬、静岡県島田市にて、静岡県茶手揉保存会 島田支部の皆様にご協力いただき手揉み茶の製茶体験をしてきました。動画や写真でその様子をお伝えします。(動画は音が流れますのでご注意ください。)
※このブログの内容は、以下のポッドキャストエピソードと連動しています。ぜひ合わせてお聞きください。
手揉み茶とは
機械を使わずに、摘んだ茶葉を蒸して揉み、製茶する技術のことです。
お茶は明治中頃(1890年)までは全て手揉みで製造されていましたが、明治30年(1900年)ごろから製茶機械によって大量生産されるようになりました。
多大な労力が必要であることから現在ではほとんど作られなくなった手揉み茶ですが、各地の手揉保存会の方々が次の世代へ技術を継承していらっしゃいます。
各地にさまざまな流派が存在しますが、今回は一般的な方法をお教えいただきました。
手順1 蒸し
今回はお茶の摘採時期ではないため、新茶のシーズンに摘んで蒸し、冷凍されていた茶葉を使用しました。そのため蒸す工程はありませんでした。
手順2 葉振るい
茶葉を拾い上げ、肘くらいの高さから振るいながら落とすことを繰り返して水分を飛ばす作業です。
ただ拾って落とすだけかと思いきや、いざ自分でやってみると、茶葉がぼとりと1ヶ所に固まって落ちてしまいます。
保存会の方々のように茶葉がきれいに舞うように振るい落とすためには微妙な指の動きが必要なことが分かりました。思うように指が動かないことにショックを受けつつも、1時間以上この動きをひたすら繰り返しました。
手順3 回転揉み
焙炉(ほいろ)上に散らばった茶葉をボールのように集め、コロコロと全身を使って回転させながら揉みます。保存会の方の手にかかるとしっとりとまとまる茶葉が、自分でやってみるとぱさぱさと散らばってしまい、まとめるのだけでも一苦労でした。
また、焙炉はしっかりと触ると意外に熱く、それも難しさの要因でした。しかしそうして躊躇していると、焙炉に触れている茶葉だけに火が入ってしまい加熱ムラにつながります。
焦っている私たちを尻目に、保存会の方々は焙炉の上を縦横無尽に動きながら茶葉をまとめていきます。焙炉は幅2m程度あり、一人で端から端まで茶葉を動かすのはなかなかの重労働です。
しかし身体を大きく動かしながら茶葉を転がし、どんどん手の中の茶葉がまとまっていきます。
中上げ
ここまでで一旦茶葉を引き上げて焙炉の清掃を行いました。
開始から3時間が経過した時点で、茶葉はこのくらい撚れています。葉っぱの状態からはだいぶ細くなりましたが、まだ見慣れた煎茶の茶葉の状態からは程遠く感じます。
焙炉に水をかけて茶渋を拭き取り、和紙の剥がれなどを米ノリで補修したあと、こんにゃくのりを塗って仕上げた状態の写真です。丁寧に手入れされた焙炉は陽を受けて輝いて見えました。
お茶は香りが命。大切な茶葉に香りがつかないよう、道具はすべて匂いが残らない天然のものを使用されていました。
布巾で拭き上げる時の動作、布巾を水で濡らして絞る時の動作にまで作法があるそうで、手揉み茶技術というのは、一連の動作がまさに伝統技術なのだと感じました。
手順4 仕上げ揉みー揉みきりー
両手で茶葉を挟み、前後に動かしながら茶葉を転がし撚りあげます。
保存会の方の動きを見てみると、ただ茶葉を挟んで動かしているのではなく、5本の指をバラバラに動かすことで茶葉同士がふれあい、手のひらの上下から茶葉が自然と落ちていっていました。しかし、どんなに見よう見まねで行っても同じようにはできず、しまいには茶葉が団子状に絡まってしまいました。
手順4 仕上げ揉みーこくりー
仕上げの段階で、葉の向きを揃えながら揉んでツヤを出します。
全ての茶葉に均等に力を入れて揉むために作法があり、覚えるのに苦労しました。
保存会の方々の手つきを真似ようにも、茶葉が手からこぼれ落ちてしまい思うように揉むことができませんでした。どの工程もそれぞれ難しかったですが、この工程が一番手こずったかもしれません。
手順5 仕上げ揉みー乾燥ー
香りや茶葉の乾燥度合いを触って確かめ、揉みの工程が終了したら焙炉の上に茶葉を広げて乾燥させます。
真ん中に穴をあけるのには「終わり」という合図の意味と、空気がよく通るようにするという意味があるそうです。
朝の8時半から始めて、途中1時間の休憩を挟み15時に揉みが終了しました。1日がかりとは聞いていたものの、実際にやってみるとその大変さには驚かされました。
当初は、あまり手を加えず蒸しただけの状態の茶葉が一番良い香りがするのではないかと考えていましたが、実際には3時間ほど揉んだ後から、煎茶特有の甘いような涼しいような香りが立ち上ってくるように思いました。揉む作業は大変ですが、自分の手の中で茶葉がいい香りを放ちながらお茶に変わっていく体験はとても良いものでした。
保存会の方々が1枚1枚の茶葉を大切に扱う様子を見て、私たちもお茶に対する気が引き締まる感覚を覚えました。
試飲
出来上がった茶葉に熱湯を差し、保存会の方々と一緒に試飲させていただきました。丁寧に手で揉んで撚った茶葉は、水分を含んでゆっくりと葉っぱの形に戻っていきます。ついじっくりと眺めてしまうような、静謐で厳かな雰囲気がありました。
私たちの揉んだ茶葉は芯水(しんみず)という、葉の中心部の水分が抜けきっていない部分があったようで、特有の香りが出てしまっていたそうです。しかし、透き通った水色(すいしょく)の軽やかな飲み口のお茶は、疲れた体を通り過ぎていくように感じました。
手揉みの体験ができるのは、茶葉が手に入りやすい産地ならでは。貴重な体験をさせていただきました。
今回手揉み茶を作るという体験をしてみて、お茶というのは茶葉の生命力をいただく飲み物なのだということを改めて実感しました。