【Leaf Academy補足資料】品種の夜明け-Ep.5品種は時代の要請を受けて変化する

前回のおさらい

前回のエピソード4では、お茶輸出が拡大した大正時代、品種が躍動し茶業界に与えた影響についてを学びました。今回は品種改良が日本のお茶生産に与えた影響についてさらに詳しくお話を伺います。


ゲスト:

中村 順行 先生 | Yoriyuki Nakamura

静岡県立大学食品栄養環境科学研究院・食品栄養科学部特任教授、食品栄養環境科学研究院付属茶学総合研究センター長


聞き手:

大澤 一貴 | Kazuki Osawa

MYE blend tea atelier代表。江戸時代から続くお茶屋「大佐和老舗」の8代目として生を受け、7代目大澤克己のもとで茶業を学ぶ。合組茶葉専門のブランドMYE blend tea atelierを立ち上げ、茶の品種の奥深さを知る。


※このブログの内容は、以下のポッドキャストエピソードと連動しています。ぜひ合わせてお聞きください。


①品種が普及するメカニズム

中村先生
中村先生

第四話ではいろんな品種ができ、そして普及が進みつつある時代だったというところまでお話しさせていただきました。今回は、品種とはどのようにしたら普及していくのかということを、まずお米を例にとりお話しさせていただいて、その後、お茶の場合にはどうなったのかということをお話させていただこうと考えています。

この後、順風満帆に品種がどんどん広がっていくのかなって考えるとワクワクしています。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

品種というのは、例えば日本の主食である稲を例にとっても、本当にまさしく時代の変遷とともに、品種がどんどん変わってきているというようなこともございます。
まず稲の場合は、当時、お伊勢参りなどによって地方の人たちがお伊勢さんに行くと。その道中で、稲作等を見ながらああ、あそこの方はいい穂だ。あそこの方は量が穫れそうだということで、お土産として自分のところへ持ち帰り、そこで植えて殖やしたのが始まりではないかと思うんですね。
そんな中で明治以降、日本の人口がどんどん増加してくるわけです。
増加するということはお米をたくさん獲らなきゃいかんということで、まずもって稲の場合には、生産増強、たくさんの稲を作らなきゃいけないということで育種、品種に期待がされるのです。そして、昔は稲ができにくかった東北や北海道で栽培できるような稲の改良にまずは取りかかるわけですね。
今では北海道は稲の1大産地になってるんですが、そこで稲ができるようになる。
いろんな技術、折衷苗代とかですね。伴いながらそれが成立してくるわけですが、そうしますと、やはり安定的に毎年穫れた穫れなかったなんていう風な年があっては困りますので、安定的に取れるような品種育成に時代は動いていくわけ。品種が少しずつ変わっていくわけなんですね。

  • 折衷苗代…保温のために発熱資材や電熱などを用いず,温床紙,ビニルなどを使って,太陽熱を十分に取入れて保温育苗する折衷苗代。資材,設備費が節約されるだけでなく,育苗の規模を大きくし,大量の苗をつくることができる。水苗代を浅水にして苗床を揚げ床とし,その上に温床紙を被覆すると,初期生育が促され,健苗を早期に育成できることから,寒冷地の稲作の安定と西南暖地の早期栽培に役立っている。(出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)
中村先生
中村先生

そして、安定的に穫れるようになると、次は「いや量は穫れたけど、もっと美味しいお米が食べたい」と欲が出てきますね。ということは、収量性は確保できた、安定生産ができてきたと。
次はというと、やっぱり品質がいいお米が欲しいんだという風なことになる。
美味しいお米の育種が次に出てくるわけです。
そして現在、コシヒカリとかササニシキとかいろんな美味しいお米ありますよね。そしてみんなが満腹、行き渡ってくると次には、タンパク質が多すぎるとちょっと体に良くないんだという風なことから低タンパク米ができたり。あるいは病気等も、一つの病気だけじゃなくって、もうあらゆる病気で農薬を少なくするためにあらゆる病気にも強いような”複合抵抗性”っていうんでしょうか。
いろんな病気に耐え得るんだという風な品種育成がされたり、さらにはですね、最近アレルギーが出る方が多いんですが、やはりお米でもですね、アレルギー出る方がいるというようなことで抗アレルギー米とかですね。そういうような様々な機能性をもった品種が育成されるようになってきているわけです。

中村先生
中村先生

お茶も全く同じでありまして、お茶の品種の普及を振り返ってみますと、まずは輸出が最優先だったということをお話ししましたよね。
あの頃、やはり輸出とともに、お茶も今と同じように早く収穫すると値段が高いということがあり、芽の出る時期が早いものがまず品種として選抜されていくんですよね。
そしてそれらが大体揃ってきて、早い時期から中生の品種、あるいは在来種のところまで、ある程度長い期間までお茶が摘める、穫れるように品種構成がされてきますと、次はお米と同じように量をたくさん獲りたいんだということで、多収性の品種が望まれるようになるんですよね。
量がたくさん獲れる品種、そしてそれらが叶うようになると、お茶の場合はこの時代に輸出するときに紅茶でないと輸出もしにくいっていうことが生じたわけです。
日本には紅茶用の品種がありませんでしたので、今までお話ししたように耐寒性豊かで発酵性豊かな紅茶の品種の育成が期待されてくるわけですね。また、昭和50年代から60年代にかけて、お茶の品種もどんどん早い方へ早生化してきたもんですから、霜の被害を受けるようになってしまうんですね。

お茶の難敵ですね。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

そうですね。あるいは冬の寒さにやられてしまうというようなことが度々重なってくるんですよね。やっぱりそうなりますと、育種としてはですね、やはり寒さに強い、まさしく耐寒性に強い品種というのが望まれて、育種して生産家に渡してということになるんですね。

先生、ちょっと話戻るんですけど、その早く出した方が高くなっていたっていうのはどういうことなんですか?

大澤
大澤
中村先生
中村先生

今の直相場と一緒ですよ。
日本人って初物買いっていうんですか、鰹もそうですし早いものの方が高い値段で買ったりするじゃないですか。
お茶も同じように、八十八夜前からですね。お茶を飲めればハッピーみたいな形でですね、早生物(わせもの)っていうんでしょうか。
そういうものは値段が高くついていたと。だから、お茶の言葉で言うと、大走りとかですね、走り新茶とかっていうような言葉もまだ残ってるわけですよね。
これはまさしく直相場を表す言葉なんですよね。

早く市場に出して早いところ儲けるという仕組みですかね。

大澤
大澤

そうすると、今度は寒さに耐えられるような品種を作っていこう、なおかつおいしいものを作っていこうということになったということですね。

大澤
大澤

②お茶の品種の普及とその過程

中村先生
中村先生

そうですね。生産者の要望に応じて品種っていうのもどんどん作られ、どんどん変わっていくという風な経過を辿っていくわけですよね。
ちなみにそんな中で、こういう風な要望を受けたからといって、簡単に品種が変わっていくわけじゃないんですよね。
前回お話ししたように、たくさん品種があるわけですよ。
だけど、なかなか品種の普及っていうのは進まなかったわけですよね。
品種化が進むっていうのはですね、大きく分けて5つぐらいの要因があると私は考えているんですね。
一つは、社会的経済的なニーズが変化してきた時に一つ変わるんですね。その最たる例が、日本は紅茶っていうのがなかったわけです。ところが、社会的に輸出するためには、紅茶でなければいけないと。
そうすると紅茶の生産をせざるを得ない、増えざるを得ないという社会的ニーズの変化によって、紅茶の技術の導入がされるという例が一つですよね。
で、二つ目は需要のニーズの変化。お茶で言うならば、今までは普通のお茶でよかったのが、玉露のようなお茶を飲もう、うまみの強いお茶飲みたいのような要求も高まってくる。
美味しいものがいいということになりますと、やはり品種としてもかぶせて旨味が強く出るような品種にシフトするわけですよね。渋みのある強いお茶より旨味の強いお茶の方にしていくという風なことの中に「やぶきた」なんかもフィットしているわけなんですね。

かぶせっていうのは、玉露を作ったりかぶせ茶とかを作ったりする旨味を増幅させるための技法というか、技術ですよね。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

ええ。それに適した品種っていうのもあるわけですよね。
そんな風なところで、需要の変化によって、ニーズによって品種も望まれるものが変わってくるいうようなことなんですね。
もう一つはそれに伴ってですね、品種も当然それにかなうようなものができてこないと変われないから、紅茶の場合なんかでも。
だから紅茶用に品種が出てこないと、先ほどのようなニーズに答えられないわけ。

紅茶用の品種が出来上がったり、その製造方法に合わせた品種ができあがるということですよね。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

で、そういう今お話あったような製造方法なんかは、まさしく生産様式にも関わってくるわけですね。生産加工の様式が変化していかないとまた紅茶も、緑茶用の機械で紅茶を作るのがなかなか大変なわけです。ですので、紅茶用の機械ができることによって、紅茶の品種もさらにたくさん増えることができるということになるわけです。そして最後は生産環境の変化っていうのもあるわけです。これ最近、特にSDGsなんて言葉ありますよね。あるいは、輸出向けに有機栽培茶が向くというようなこともあるわけですね。
まさしくこのような経済的ニーズ、あるいは需要が有機栽培が輸出のためにいいという時には、そういう風な生産、有機栽培のような環境作りをしながらお茶を作らざるを得なくなる。
逆に言うと、そのような生産環境に向くような品種ですよね。
有機栽培やると虫がたくさんつくとなれば、耐虫性、虫に強いような品種が望まれてくるわけです。そんな風な形で、品種ができるだけでも普及しないし、そういうような周りの要請、ニーズと合致して初めて普及が進んでいく。

あの先生、さっき言った何かの機能性に合わせるがために何かを削らなければいけないというようなことって起きたりするんですか?

大澤
大澤
中村先生
中村先生

しますよね。
ちなみに、あの「べにふうき」っていう品種がありますよね。
「べにふうき」は本来半発酵茶、紅茶用の品種なんですね。ところが、メチル化カテキンという成分が見つかって、アレルギーに効くということで、緑茶を作るようになりましたよね。緑茶でないとメチル化カテキンがないということで。そうしますと、そのメチル化カテキンっていうのは柔らかい芽よりも硬い芽の方が量が多いんですよ。
そして柔らかい芽で美味しい部分で生産していくと、メチル化カテキン含有量が少なくなってしまうということで、硬くなるまで、熟すまで待つわけです。すると、そのいい部分はもうさておいてメチル化カテキンに特化して、大量に含まれるような、熟した芽を摘採するような生産方式に変わる。だから単純に柔らかいのがいいよということを覆した栽培動機がとられると。

柔らかい方がみる芽とか、甘いようなお茶が生まれるような意味があると思うんですけども、あえてそれを硬くすることで、メチル化カテキンの機能性の部分を重要視したお茶が出来上がると。

大澤
大澤
品種が変わる主な要因
  • 社会、経済的ニーズの変化…ex)輸出のために紅茶の生産が必須になった
  • 需要ニーズの変化…ex)旨味の強いお茶がいいなどの需要
  • 新品種の登場…ex)耐寒性のある品種の登場
  • 生産様式の変化…ex)紅茶用品種の登場により紅茶用機械も増加する
  • 生産環境の変化…ex)時代のニーズに合わせた生産環境(有機栽培)などの登場による

③お茶の品種化とその影響

中村先生
中村先生

そんなのも一例かと思います。
品種に対するニーズが増えてきて、品種がたくさん育つ条件がそろってきた。
そして皆さんに植えていただきたいと、県とか国とかで育種がどんどん盛んにされてきたんですけども。
奨励品種はいいぞ、この品種はいいぞっていうことで生産農家に奨励していくんですが、残念ながらですね。お茶の場合には奨励してもしても植えられたのは「やぶきた」だけになってくるんですよね。

杉山彦三郎さん大喜びですね。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

どうでしょうか。
杉山彦三郎はちなみにですね、「やぶきた」の普及を見て亡くなったわけではないんですよね。むしろ天下一品茶のような素晴らしいお茶を非常に長期間にわたって作るために、品種を早い時期のものから遅い時期のものまで揃えなければいけないという風なことで、育種をされた方なんですよ。だから、一つの品種だけが増えることに対しては、あまり喜んでないかと思いますよね。
むしろ、品種組み合わせによって長い期間いいお茶を作るのがもう品種育成の真骨頂だという風に考えていたんじゃないかと思いますよ。

じゃあ、なんで「やぶきた」だけがそんなにここまで広がってきたかってことですよね。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

そうなんですよね。
だって静岡県の場合、品種化率がどんどん高まっていっても、九割ぐらいは「やぶきた」だけで占めていた。鹿児島の場合はちょうど五割ぐらいなんですけども、特異的にすごいんですよ。
あれだけ品種がたくさん出ているにもかかわらずですね。「やぶきた」って悪い品種じゃないんですよ。私から見ても。
一つはもう品質的にも素晴らしい。香りも素晴らしい味がある。
そして摘採時期も在来種から比べたら一週間以上早いんですね。八十八夜にうまくやれば「やぶきた」が飲めるわけですよ。在来種は八十八夜には飲めないですよね。
そんな風な特徴もあるし、さらには収量性も非常に多いでしょ。

もちろんこれだけ普及してますから多いですよね。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

どこに作っても「やぶきた」は同じような品質でできるわけですよ。
そんなですね、素晴らしい品種であることは間違いないんですよ。
しかしですね、これが増えてしまうといろんな問題点が出るんですよね。

あ、そうなんですか?
収量が取れて、八十八夜より前で走りで早めに出せてとか、みんなハッピーじゃないんですか。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

そうなんです。
だけど「やぶきた」だけですとね。いくら摘採期間を伸ばそうと、整枝という風な技術を駆使しながら、あるいは肥沃栽培しながら伸ばそうとしても一週間、二週間ぐらいしか伸びないんですね。
やっぱりお茶の芽は硬くなってしまう。
硬くなれば品質がどーんと落ちるわけですよね。しかも「やぶきた」だけこれだけたくさん面積を作ってしまうと、摘採時期が集中化してしまうがゆえにですね。
摘んだものは茶工場に持ってくると茶工場がパンクしちゃうわけですよ。
だから茶は刈止めみたいなことで、今日はもうここまででおしまいみたいなことに。せっかく摘んだお茶もダメにしちゃうんですね。しかも刈止めすると生産農家が摘めませんので、翌日さらに翌日になってくると、どんどん硬くなってきちゃうというようなこともある。
逆にじゃあ、茶工場を大きくしたら?みたいなことをいうとお金がかかりすぎますよね。そんな風な欠点が出たりですね。また、「やぶきた」は決定的に病害虫に弱いんですよ。

これが意外だったんですよね。
こんだけ普及したんだから、ものすごく病気に強いのかなと。
寒さにもものすごく強いのかなとか思ったんですけど、違うんですね。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

残念ながら病害虫に弱いんですよ。
だから非常に安心安全のためのお茶を作るのに、農薬等をたくさん撒いたりしながら「やぶきた」の病害虫管理をしていかなきゃいかんと。今の時代にちょっと逆行しますよね。

ちょっと手間もかかりそうです。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

そうですよね。さらにはですね、これだけ「やぶきた」ばっかりになっちゃうと、消費者としてはお茶っていろんなお茶を楽しみたいっていうのがあるじゃないですか。
ところがどのお店に行っても「やぶきた」しか売ってないとなるとお店の価値もないし、飲む人もつまんないですよね。
そういう風な画一化も起こってしまうと。お茶イコール「やぶきた」の香りや品質というのがもう一辺倒になってしまう。そういう風な弊害が起きてしまうと消費者も飽きちゃうわけですよね。
なんだ「やぶきた」か、他のもっとお茶も味わいたいのに、この味しかないのかみたいな形になっちゃうわけですよね。
そういうふうなことから、業界としても硬直化してしまうと、新しいものが生まれないっていうこと。キャパシティがないという風なことにも繋がっていくわけなんですね。
でも、まだ「やぶきた」がなかなか他の品種に変えられないなんていうのは、一つは、よかれと思ってやってきた品評会って紹介しましたよね。あれは技術の向上等々を図りながら、なおかつ品質の向上を図るために行ってるわけです。ところが、その品評会でも皆さん審査するわけです。味や香りがどれがいいっていうことで審査していくんですが、「やぶきた」ばかりになってしまいますと、「やぶきた」の品評会になっちゃうんですよね。
そうすると、「やぶきた」以外のものが出てくると、これ「やぶきた」と違うぞっていう風なことで、異味異臭っていうんでしょうか。異なる味がする、異なる臭いがするということで、どんどん落としてしまうわけですね。

お茶を丁寧に作って、それを審査するんじゃなくて「やぶきた」の香りとか味とは違うものとしてどんどん省かれていく。それで自動に順位がつけられていくっていうようなルールに変わってきちゃっているっていうことなんですね。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

本来の目的であった技術の向上とか、品質の向上、さらにはお茶の持つ多様性ですね。嗜好の多様性、そういうところと逆行してしまっているという風な現象も起きてくるんですね。
最初はいいんですよ。素晴らしい品種ができたから、普及するためにやろうぜ!みたいなところで、どんどん普及してきた。
そこまではいいんですが、普及し過ぎてしまうと、そのような弊害もですね、起きてくるというところ。

軒並み上位になっていったのは、ほぼ「やぶきた」が上位を占めていたと。他の品種ももちろんあったと思うんですけども。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

そうなんですけども、審査員の人は鼻もいいし、味も判断できますので、あ、これ「やぶきた」じゃないとわかっちゃうわけですね。
そうすると落としちゃうわけですよね。
すると、品種を育成する現場にしても「やぶきた」以外の品種がいらなくなっちゃうわけですよ。
そうしますと、ますます「やぶきた」だけになってしまう。
ただし、生産現場では面積を増やすためにはやっぱり早生とか中生とか晩生とか、品種組み合わせっていうのも必要なんですね。そこで育種家が考えたのは、「やぶきた」と似た味、似た香りの早生や晩生品種を育成することになるんですね。
「やぶきた」を片親にして、「やぶきた」に近いような味、香りを持ったものを交配して早生や晩生を選んでいくんですよ。そうすると、名前は例えばの話「おおいわせ」みたいなものができても、あれ「やぶきた」の血が入ってますので、香りとかが「やぶきた」にそっくりなんです。それの早生ということになるんですね。ですので、そういう早生と中生と晩生を作ることによって、消費者の方は見分けがつきにくい。もう全然嗜好の多様性にならないですよね。

たとえ品種名が違ったとしても、遺伝的にその「やぶきた」が含まれてて、その香りとか味がそれに近いとなってくると、消費者としてはなんかどれも似たような感じだなっていう印象になってしまうっていうことなんですかね。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

もう全くですね。
違いがない、面白みがない。嗜好品であるにも関わらずですね、多様性に富んだ味わいを求めてもなかなかそれが買えないという風なところに入っちゃうんですよね。
そうしますと、茶業界自身っていうんでしょうか。そこも硬直化してしまうんですね。伸びがなくなるんですね。

でも、「やぶきた」がすごい普及していた時代っていうのは、まさに急須が普及して、一般のそのご家庭とかにも煎茶が飲まれるようになって、どんどん作れば売れていく時代だったっていうのも相まって、どんどん大きくなって止まらなかったんじゃないですか?

大澤
大澤
中村先生
中村先生

そうです。だから逆に言うと、「やぶきた」という品種があるでしょ。
1000人のなかで100人が「やぶきた」を飲めて900人飲めなかったとしても、100人の飲んだ人が「あれは美味しい品種だぞ」って言ったら、他の人も飲みたいわけでしょ。
でも100人分しかお茶がないから100人しか飲めない。他の人900人が飲みたいって、「やぶきた」をまた作るわけですね。そうすると次は300人が飲むことができた。という風なことで、どんどん飲める人たちがいる間は伸びたんですね。
ところが、昭和50年代ぐらいになると、国民が皆豊かになって日本中どこでもお茶が飲めるような時代になってくるじゃないですか。
そうしますと「やぶきた」もそこで頭打ちになるわけですね。
もうみんなが「やぶきた」を飲めるようになるから。そういうふうな時代が昭和50年代から60年代になるわけですよ。
そこから茶業界のプラトーとでもいうんでしょうか。
頭打ちになってきて、次の時代の新商品とか、多様性を求めるようなところに進まなきゃいけないぞという意見が非常に多く出てくるようになるわけですよね。
「やぶきた」だけではもう伸びしろないぞという風になるんですが。

分かってはいたものの、なかなか軌道修正をするのが難しかったですかね。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

そうなんですかね。お茶の場合はお米とか野菜と違って、新しい品種に切り替わるのが、やはり今あるところを抜いたり、あるいは茶園を作ったりして、苗木を植えても5年間ぐらいは収益がなかなか取れないわけですね。それだけの投資をですね、なかなかできないというところが根っことなり、ずるずるずるずると「やぶきた」だけで来てしまったという結果になってしまったこともあろうかと思います。

これはやっぱり裕福になってくると、大量生産が必要になって、そのために「やぶきた」っていう大きなガリバーみたいな品種ができて、そこからもう止まらなくなっちゃって。
今まで国がどんどん品種を増やしていこうとした考え方がちょっと変わってきちゃったんですかね。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

まさしくですね、時代の変遷とともに変わるというふうなことと一緒なんですよ。
一番言えば恐竜もそうですよね。恐竜って最初、小っちゃかったでしょ。
あれがどんどんどんどんどんどん巨大化してくるわけですよ。
最後はなんで亡くなったか知りませんよ。隕石説とか、いろんな説がありますね。あれだけ巨体になると、多分自滅せざるを得ないんですね。
まさしく茶業界も、これだけ同じもので大きくなってきて、それだけで一辺倒化してしまうとですね、多分ですね。
先はですね、ちょっと怖くなって言えないんですが。笑
どんな業界でもそうだと思うんですよ。同じものでそんな長続きはしないんですよ。
だって、その前に時代がどんどんどんどん動いてますので、その時代に向かって、あるいは時代にですねのニーズに合ったものを提供していかない限り時代遅れになっちゃうわけですよね。
そこにフィットとしたものだけが生き残れるんですよね。

いわゆる変化に対応できるものしか残れないと。

大澤
大澤
中村先生
中村先生

ちなみにダーウィンってご存知ですね。
まさしくですね、進化論っていうのは、強いものが生き残るんじゃないんです。その時代に適応したものが生き残り、繁栄していくんですね。
で、繁栄して時代遅れになると死んでいくというようなことになるわけですね。死なずに残ってるのはガラパゴスというですね。ガラパゴスで生き残れればいいんだけど、なかなかそうは問屋がおろさないと。他の業界もみんなそう。
ちなみにカメラもそうでしょ?昔の簡単なカメラがあって、一眼レフができて、簡便なカメラがコンパクトカメラができて。
で、今はそのカメラさえ見かけなくなった。そして今、スマホの時代入ってるわけですね。

どんどん変わってきます。 

大澤
大澤
中村先生
中村先生

どんどん変わってきますよね。
レコードだってそうですよ。
SP盤ができてL盤ができて、CDができて、今はCDもなくなってるじゃないですか。音声配信になって、そういう風に時代と共にどんどんどんどん変わって、そこに適応したものが生き残っている。茶業界もですね、それが必要な時代に入ってきたんですねというようなことを私自身も考えてるんですね。
そんな中で「やぶきた」が一辺倒化して硬直化している茶業界にですね、ようやく新しい兆しが見えかけているんじゃないかと私自身は考えているんですが、そんなお話をですね次はしてみようかなと。


【補足】奨励品種選定の時代的推移

年号時代背景選定の目的選定品種
昭和10年代
(1935~)
輸出の拡充強化栄養系品種の増殖による多収量化、高品質化やぶきた、こやにし、ろくろう等
昭和30年代前半
(1955~)
輸出再興、国内需要へ移行紅茶用品種の採用べにほまれ、からべに、ただにしき
昭和30年代後半
(1960~)
景気高騰、洋食化洋食に対応した品種の採用ふじみどり、べにふじ、はつもみじ
昭和40年代
(1965~)
国内需要の急増、製茶機械の大型化多収性、早晩生品種、高品質化くらさわ、かなやみどり、おおいわせ
昭和50、60年代
(1975~)
需要の硬直化、凍霜害の多発耐寒性品種の採用さやまかおり、おくひかり
平成
(1989~)
バブルの崩壊、多様化香味に特徴ある品種の採用香駿、つゆひかり

「やぶきた」品種の拡大による様々な影響には驚くばかりです。先生の仰る明るい兆しとは何なのか、次のエピソードで語られるのを楽しみに待ちましょう。


品種に興味が湧いてきた方へ、おすすめのワークショップのお知らせです。

拝見会

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